どんなものが不貞の証拠となりますか?
「不貞」とは、貞操を守らないことや貞節でないことなどを表す日本語ですが、このコラムではもう少し厳密に、法律上で使われる用語としての「不貞行為」についてと、それを示す証拠とは何かについてお話ししたいと思います。
「不貞行為」とは
「不貞行為」とは、既婚者(婚約、内縁関係も同様です)が、配偶者以外の異性と自由意志で肉体関係を持つことを指します。
これは、夫婦間における「同居、協力及び扶助の義務(第752条)」に含まれていると考えられる「貞操義務」を破る行為と考えられることから、夫婦の権利を侵害する民法上の違法行為ととらえられています。
※不貞行為が、既に夫婦関係が破綻していると認められる状態(長期間の別居など)で行われたものでないことを前提としています。
不貞の証拠に必要なポイント
証拠について考えるうえで押さえておきたい点は、「肉体関係があること=貞操義務違反」への訴求となるかどうかという点です。
性交渉をしているときに撮影した動画や写真などがあれば、もちろん言い逃れできない決定的な証拠といえますが、行為そのものをとらえることはかなり難しいものです。
そのため、客観的に「肉体関係があったことが推認される事実」を揃えることが必要になってくるのです。
不貞の証拠が必要な理由
「不倫相手に慰謝料を請求したい」「有利な条件で離婚したい」「離婚請求をはねのけたい」など…さまざまにご事情があるとは思いますが、共通して言えることは、相手が不貞行為を否定した場合「請求する側(不貞があったと主張する側)が、相手の不貞行為を立証しなければいけない」ということです。
もしも、証拠が乏しく立証責任を果たせない場合は、たとえ事実としては不貞があったとしても、請求は認められないことになってしまいます。
初めは不貞を認めるような発言をしていても、慰謝料などの問題に発展すると否認に転じたり、脅されて仕方なく言ったなどと胡麻化し始める方も残念ながらいらっしゃいます。
その時になってから証拠を集めようと思っても、弁護士にアドバイスをされていたり、用心深くなっていたりして難易度が上がってしまっていることが多くあります。
先のことまで考えて、早い段階から証拠を押さえておくことがとても大切だといえます。
不貞の証拠が必要ない場合
示談であれば、証拠がなくても可能です。
お互いの主張が対立せず、話し合いで示談が成立するようであれば、証拠を持ち出して突きつける必要はありません。
不貞の証拠になるものとは
一番大切なことは「不貞行為があったと強く推認できるもの」であるかどうか、「反論の余地を与えない決定的なもの」であるかということです。
「LINEのやり取りも証拠になりますか?」「車のGPSの位置情報は証拠になりますか?」などの質問をいただくことがありますが、「ふざけてやり取りしていただけで、実際はしていない」「車を同僚に貸していただけで、自分は行っていない」などと言って胡麻化されてしまったらどうでしょうか?
できるだけ決定的な証拠、もしくはできるだけ複数の証拠を揃えておくことが大切といえるでしょう。
写真・動画
最も有効なものが写真や動画です。
これは、事実を客観的に切り取ったものとして極めて有用なためです。
- いつ(撮影日時が分かるようにする)
- どこで(場所がわかるように撮影する)
- だれが(配偶者と相手の顔がハッキリと写るように撮影する)
がしっかりと分かるように撮影することがポイントになります。
- ホテルへの出入り
ホテルなどへの出入りについては、入った時と、出た時の両方を撮影することによって、二人で滞在していた時間を推計することもでき、不貞行為があったと推認できるものとなります。
ラブホテルであれば、社会通念上「性行為を目的としている」と推認できますが、相手の自宅やビジネスホテルなどでは、必ずしも性行為を目的としていたとは言い切れないため、前後の二人の行動や経過時間、二人で会っている頻度…など、様々な要素から「不貞行為があったと推認されるか」を判断していくことも多くあります。
- デート中のキスやハグの写真
- ホテルの駐車場への出入りが写ったドライブレコーダーの映像
などは、これだけでは不貞行為があったという証拠にはなりませんが、
前後の行動と合わせて、不貞行為があったと推認しうるために有効なこともあります。
また、プライベートな写真を見ることが可能な環境であれば
- 性行為そのものの写真や動画
- 配偶者と相手の裸体写真
などがあれば、決定的な証拠となりえます。
※不正アクセスなどによる入手やプライバシーの侵害などの問題には注意が必要です。
本人による自白
配偶者本人が不貞を認めた事実を、正しく音声や念書などにして記録しておくと(公正証書など公的なものには劣りますが)証拠となるでしょう。
- 配偶者自身が不貞を認めた念書
- 配偶者自身が不貞を認めた音声
など
気を付けたいのは、「後で言い逃れできないようにする」ことと「必要事項をきちんと押さえておくこと」です。
- 「必要事項」
- ● 不貞行為の開始時期、期間
- ● 不貞行為の回数や場所など
- ● 不貞相手の名前や住所、職業、生年月日など(分かれば詳しく)
- ● 不貞行為があったこと(又はこれに準ずる行為があったこと)や経緯
- ● 念書記入日、記入者(配偶者)の住所と氏名
- そのほか
- ● 不貞相手は結婚していると知っていたか
- ● 不貞相手と今後は会わないなどの約束
- ● 約束が破られた場合の取り決め
など記載しておくと、後々役に立つと思われます。
- また、念書の作成については、
- ● 第三者の目があるところ(ファミレスなど)で行い、書面にも記入場所を記載
しておくとよいでしょう。
なるべく、すべて自筆で書いてあることが望ましいですが、難しい場合は住所氏名などを自書してもらい印鑑を押すなどしておくとよいと思います。
音声においても、同様の項目を意識し、録音することが必要です。
念書を記入したうえで、音読してもらい音声データとしておくのがおすすめです。
音声
ICレコーダーなどのデジタル機器による音声データでは、編集などをされていないと分かることが大切なため、重要な部分だけ保存しておくなどせず、無加工の状態で保管しておきましょう。
音声においても、大切なポイントは変わりません。
日常的な会話だけでなく、肉体関係の事実が分かるような音声データであることが必要です。
- ドライブレコーダーの音声
- 不貞相手との電話の録音
- 友人など第三者の目撃証言
など
とはいえ、映像などのように、確実に配偶者本人と分かる人物が視認できるわけではないため、配偶者に「自分の声ではない」などと胡麻化されることも否めません。
音声データのみで、言い逃れできない決定的な証拠とするのは、なかなか難しい面があります。
友人など第三者の目撃証言は、人違いや見間違えであるなどの言い逃れができるため、確実な証拠とはなりえません。(友人による証拠写真の撮影がある場合は「写真・動画」を参照ください)
妊娠や堕胎がわかる資料
- 胎児のエコー写真や産婦人科の診療報酬明細書
など、妊娠や堕胎がわかる資料は直接的な不貞の証拠になりえます。
ただ、相手に関しては判然としないため、不貞相手への請求に際しては、別に証拠が必要となるかと思われます。
また、中絶の同意書などについては、男性側の場合「友人関係だが頼まれて書いた」などと胡麻化される可能性もあるため、そのほかの証拠を重ねる必要があります。
メールやSNSのやりとりなど
- ホテルや旅行に行ったなど、相手との肉体関係があることを推測させる内容のやりとりや投稿
LINEやメールのやりとりであっても、性交渉があった事が直接的に書かれてあり、事実を証明することができる内容であれば証拠となりえます。
実際には、「昨日はよかったね」など直接的ではない言い回しであることが多いです。
その場合でも、ラブホテルのレシートやクレジットカードなどの使用履歴などと照らし合わせるなどし、いくつか積み重ねることで証拠となりえる場合はございます。
メールやSNSのやりとりを手元に残したいときは、画面をスマホごと写真に撮って保存しておくとよいでしょう。
(メールやSNSの場合も、画像に関しては「写真・動画」を参照ください)
現在地など居場所に関わる情報
- 交通ICカードの利用履歴
- カーナビの履歴
- GPSの記録
- ラブホテルのポイントカード
いずれも、本人の移動であるかが判然としないことや(ICカードや車を貸したなど)、相手が誰であるか不明である事から、それだけでは証拠としての力は弱いものとなります。
「カーナビの履歴を見たら、頻繁にラブホテルに立ち寄っているのが分かった」などの場合、証拠として突きつけたくなりますが、カーナビやGPSなどは電波の通りにくい場所では正確な場所が示されないことがありますし、精度の問題で数メートルの誤差が出る事もあるため、それだけでは証拠としての能力は高くはありません。
位置情報とともに、配偶者本人が、その場所に出入りしていたことが分かるような写真や動画があることが、言い逃れできない証拠となるポイントです。
そのほか証拠として考えられるもの
- 性交渉の詳細や感想などを書いた日記等
- 不貞相手からの手紙と贈り物
- 不貞相手と宿泊した時のホテルの領収書(クレジットカードの明細)
- 避妊具や道具など(自分とは使用しないのに所持している)
など
いずれも相手との間柄が親密なものであることが伺えるものといえます。
しかし証拠としては、単独では不貞行為が本当にあったかを断定するまでの力はありません。
「妄想で書いた」「行為自体はしていない」「友人にもらっただけ」など言い訳をされてしまうこともあるので、プラスしてほかの根拠を提出することで、証拠能力を発揮できるようになります。
まとめ
- ポイントは
- 「肉体関係があったことが強く推認される」かどうか
誰の目にも、不貞行為があったであろうと判断できることが大切です。
- いつ(撮影日時が分かるようにする)
- どこで(場所がわかるように撮影する)
- だれが(配偶者と相手の顔がハッキリと写るように撮影する)
を意識しましょう。
- 注意する点は
- 不正アクセスなどによる入手やプライバシーの侵害などの問題に注意
自分で証拠を集めていると、つい問い詰めてしまったり、バレてしまいプライバシーの問題等で関係を悪化させてしまうということにもなりがちです。
また、素人判断で「証拠をつかんだぞ!」と思い行動を起こしてしまうと、後々になってその証拠では足りないとなった場合、望む結果を得るのが難しくなるでしょう。
感情的にならずに、先のことまで見通しつつ行動することが大切です。
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